2017年11月23日木曜日

レスリングの事故報道について

 「文春砲」で有名な週刊文春。レスリングで行った事故を取り上げています。

http://bunshun.jp/articles/-/5035

 言論の自由を尊重するのが当協会なので、抗議とかはないと思いますが(ホームページの写真を無断で使ったことに抗議すべきだ、との意見はありましたが…。著作権法上の「引用」の範囲内だ、と返されて、終わりでしょう)、事故現場にいた人間として、私見を述べてみます。


 結論として、文春の見出しにあるような「ひた隠す」という事実はありません。


 そもそも、文春の記事にも「レスリング協会は、『JOCを通じスポーツ庁に報告しており、隠蔽の事実はありません』」と掲載しています。執筆者は「ひた隠し」していないことを認めているのです。記事を書く人と見出しをつける人が別ということは知っていますが、ここまで内容と違う見出しをつけるというのは、どうかのかな、という思いを感じます。


 9月13日の事故以来、協会ホームページの責任者である私には、「書くな」といった指示はまったくありませんでした。協会のだれに対しても箝口令(かんこうれい)はしかれていないと思います。

 負傷したのは拓大の谷口選手です。今月11~12日の全日本大学選手権で拓大が団体優勝を遂げた記事には、谷口選手のことを書いてあります。その記事に対しても、削除を求められてはいません。

http://www.japan-wrestling.jp/2017/11/13/117636/

 事故そのものを書かなかったのは、選手の不幸のことであり、何が何でも書くことではないと思ったからです。最近は、すぐに「個人情報」といったことが問題になっています。チームから「寄付をつのる」などで頼まれれば、書くことにためらうことはしませんでしたが、頼まれもしないのに書くわけにはいかない出来事と判断しました。


 不可抗力の事故です。しごき、といったものではありません。家族は公表を望んでいないかもしれませんし。(拓大優勝の記事を読まれたようで、西口部長に「ありがとうございました」と連絡してくれたとのことです)


  同じような事故で半身不随になってしまったプロレスの高山善廣選手に関しても、団体から正式に発表があったのは、負傷の具合が確定したあとで、4ヶ月後のことでした。記事にするのは、負傷の具合がはっきり分かってからでもいいか、といった気持ちでした。


 文春が書いて、後追いした新聞メディアは、さすがに「ひた隠し」とは書いていませんが、一様に「日本レスリング協会は公表していなかった」と、直接的な非難ではないものの、暗に協会を非難しています。しかし、この種の事故が起きた場合のガイドラインというものは、JOCにもスポーツ庁にも存在しないのではないでしょうか。


 したがって、JOCやスポーツ庁には報告したものの、メディアに公表しなければならない、という発想自体が協会にはなかったと思います。「ひた隠し」とは違うと思います。


 ちなみに、10年ほど前にも、愛知の高校の大会と自衛隊とで事故があり、負傷した選手が半身不随になる事故がありましたが、メディアには公表していませんでした。しかし、公表しなかったことはとがめられていません。時代が変わり、レスリングへの注目も変わっているので、対応を変えなければならないのかもしれませんが、それなら、よけいガイドラインが必要だと思います。


 産経新聞は「味の素トレーニングセンター始まって以来の重大事故」と書いていましたが、そのことが問題なら、レスリング協会ではなく、味の素トレーニングセンターが発表すべきことではないでしょうか。


 文春の記事には、「レスリング協会には、事故の内容を公表し、『事故防止の対策は十分だったのか』など検証する責任があるはずです」(スポーツ事故問題に詳しい内田良・名古屋大准教授)との記述があります。このことは否定しませんが、それなら、繰り返しますが、JOCなどがきちんとしたガイドラインをつくるべきだと思います。


 いまネットを見たら、Business Journalで、また訳の分からない記事が載っていました。


http://biz-journal.jp/2017/11/post_21464.html


 その中の一節です↓


 スポーツ紙のプロレス担当記者がこう語る。「栄さんが男子でも指導をしているのは知らなかった。アマレスでもプロレスでも頸椎損傷はあまりない。組み合って投げたのなら反り投げだと思いますが、よほど実力差がない限りケガはしない。栄さんは実力に差のある選手同士でスパーリングさせるのが指導法。おそらく、今回も実力が上の選手と谷口選手をスパーリングさせたのではないでしょうか」


 これは事実に反しており、取材もしていない臆測のコメントです。学生王者に輝いた選手が前の年の学生王者とスパーリングするのを「実力が違いすぎる」というのであれば、スパーリングをできる選手は限られてしまいます。


 雑誌の週刊文春では(ネットの記事と雑誌の記事は、微妙に違うんですね。初めて知りました)、栄本部長が周囲に対し「面倒なことになったから強化本部長を辞めたい」と漏らしている、との伝聞をもって、「責任放棄の姿勢」と書いてありましたが、親しい人に弱音を吐くことなど、だれにでもあると思います。


 栄本部長は、全日本大学選手権が始まる時(同本部長は会場には来ていません)、拓大の西口部長にラインで「色んな事があり過ぎて、大変だと思うが、谷口君の分も大学選手権頑張って👍 副本部長として私にとって大変助かってます。応援してます。負けるな西口茂樹‼️ 全てを背負え‼」とのメッセージを送っています。


 西口部長は「ありがとうございます。暖かいお言葉、涙が出ます。全力で頑張ります」と返信しています。(私信を公表することに抵抗ありますが、必要と思い、私の責任のもと、本人達に断りのないまま公表します)。


 これが、責任を放棄したトップと負傷した選手の所属の代表とのやりとりだと思いますか? 2人とも、選手の将来を棒に振らせてしまったことに胸を痛めているのです。


 もちろん、けがをさせた張本人もです。事故当日、事の重大性に泣いていました。きっと、今も辛さを抱えて闘っていると思います。


 今は谷口選手の回復をお祈りするだけです。もし、治療費や生活費の寄付を集めることがあれば、ホームページとして最大限の努力は惜しみません。仕事上のけがで、一時、「半身不随の可能性」と診断されたアジア・レスリング連盟の塚本副会長は、いま、普通に歩けるまでに回復しています。


 谷口選手の回復を心からお祈りします。